真の意味の配慮

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「・・・その女としては、病床から起き出し、お化粧で顔をごまかし、自分の大好きな女優に会いに行って、サインをもらったことが、自分には機略や勇気や気力があることを示す事実だと思っていたわけです。それは彼女が生涯を通じて自慢にしていたことだったのです。ヘザー・バドコックには何の害意もなかったのです。害意などはもったこともないひとなのですが、ヘザーのような(わたしの以前からの友だちのアリスン・ワイルドのような)人たちは、ひとの心を傷つける可能性をもっています-親切心がないからではなく、親切心は持っているのですが-自分の行為がひとにどういう影響を与えるかについての、真の意味の配慮がないからですわ。いつもその行為が自分にどういう意味を持っているかを考えるだけで、ひとにどんな気持ちを与えるかということは、ぜんぜん考えようともしないからですわ」

ミス・マープルは自分で自分の言葉にちょっとうなずいた。

アガサ・クリスティー、『鏡は横にひび割れて』、早川書房、2004年7月15日発行、436ページf

女優マリーナにはハンディをもったこともがいました。ハンディをもって生まれてくることになったのは妊娠中に風疹を患ったことによるとの説明を医師から受けました。その説明を信じた彼女は自分を責め続けたことでしょう。いったいどこでだれから風疹に罹患したのか。何年も経って今目の前で快活に話す女性ヘザー・バドコックがその原因であった事実を知ります。赦せない心は衝動的な殺人へと女優マリーナを導きました。

マープルは害意などみじんもなく親切心にあふれたヘザー・バドコックの問題点を語ります。配慮がなければどんなに素晴らしい言葉もまた生き方もひとを傷つけることにしかならないのです。

この作品は真犯人である女優マリーナ・グレッグをエリザベス・テーラーが演じクリスタル殺人事件というタイトルで映画化されているそうです。

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