私は、語りかける声の主を見ようと振り向いた。(黙示録1・12)

  • この虫はな、俺なんだ

    「踏み潰さないでくれ」

    蟻は右へ左へうろうろとしながら、黙々とコンクリートの床を歩き続けた。

    「加代子。この虫はな、俺なんだ・・・・・・」

    「どういうこと」

    「・・・・・・なに。ただ歩いているのさ」

    高村薫、『地を這う虫』、「地を這う虫」、227ページ

    訳あって警官を辞め今は別の勤めをしている主人公の言葉です。さまざまな事柄を几帳面に手帳に記すのは元警官だったからかそれとも元々の性格なのかわかりませんが、その几帳面さが隠れた犯罪を暴き事件を解決に導きます。そのような歩みを「虫」と表現しているのでしょうか。

    ただ歩いているだけの虫のような存在。一見むなしく聞こえる言葉ではありますが、そのような実直な生き方に、複雑な社会の中で複雑に生きることを強いるような社会にあってむしろあこがれを感じます。

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