わたしはすでに世に勝ちました

静まりの時 ヨハネ16・25~33
日付:2024年05月02日(木)

「これらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたがわたしにあって平安を得るためです。世にあっては苦難があります。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝ちました。」(33)

 「これらのこと」とは、聖書全体をさしていると考えてもよいかもしれませんが、直接的には14章から「あなたがたは心を騒がせてはなりません・・・」で始まる3章に及ぶ言葉のことでしょう。イエスさまは、過ぎ越しの食事、すなわち最後となる食事の席で、弟子たちの足を洗われました。その後弟子たちに向かって話された言葉のことです。弟子たちとの対話を交えてではありますが、十字架にかかる前の決別の説教のような言葉です。
 ここで弟子たちは、次のように語っています。

「本当に、今あなたははっきりとお話しくださり、何もたとえでは語られません。あなたがすべてをご存じであり、だれかがあなたにお尋ねする必要もないことが、今、分かりました。ですから私たちは、あなたが神から来られたことを信じます。」(29,30)

 弟子たちは、イエスさまのことがよく分かった、もうすっかり信じている、と語っています。しかしその弟子たちに向かってイエスさまは、「あなたがたはそれぞれ散らされて自分のところに帰り、わたしを一人残します」(32)と言われました。信じているとは言っているけれども、間もなく裏切ってしまう弟子たち。イエスさまはそのことをよくご存じでした。そのうえで語られた言葉が、33節「これらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたがわたしにあって平安を得るためです。世にあっては苦難があります。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝ちました。」

 イエスさまを裏切ってしまう。そうして失ってしまう平安。まことの神さまがともにいてくださることを信じていただいた平安。その平安が失われる。外敵からの攻撃によるのではなく、自分自身が神さまを裏切ってしまうことによって失ってしまう平安。いわば内なる敵によって奪われる平安。そのような中に弟子たちが落ち込んでしまうことを見抜いておられるイエスさま。そのイエスさまが弟子たちに向かって、なお平安に生きることができるようにと語ってくださった言葉。それが「世にあっては苦難があります。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝ちました」。
 この苦難とは、何よりも自分の罪や足りなさから生まれる苦難のことであり、勇気を出せ、大丈夫だ、わたしはすでに世に勝った、勝利したといわれた「世」とは、弟子たち自身である、と想像できます。あなた自身の弱さから生まれた不安。その不安にも、そしてその不安を生み出すあなた自身にも、わたしはもう勝利したのだよ、あなた自身は勝利できなかったかもしれない、しかしわたしはすでにあなたに対して勝利した、だから大丈夫、と。

 先日の結婚式で久しぶりの方々にお出会いすることになりましたが、おまけに久しぶりの賛美歌を聞くこともできました。「わたしのありがとう」です。私にギターの手ほどきをしてくださった兄弟が歌ってくださいました。

1,ありがとう さわやかな目覚めを
  ありがとう 妻や子等の笑顔
  小鳥たちの 夜明けのうた
  ひとときの 祈りを
2,ありがとう 健康と使命を
  ありがとう 職場と交わりを
  時を忘れ 自分を忘れ
  心こめる よろこびを
3,ありがとう たそがれのおとずれ
  ありがとう こころよき疲れを
  庭の木々を そよく風を
  通い馴れた 街角を
4,ありがとう あかりともる我が家
  ありがとう 子供らの歌声
  手をつないで 夕べの感謝
  ありがとう ありがとう

 2節に「時を忘れ 自分を忘れ」という歌詞があります。自分はいつも最大のテーマですが、私たちは自分を忘れることができないので平安を失ってしまいます。その自分を忘れるほどに神さまを愛することによって与えられる平安。その平安は決して奪われることがないのだと思います。

 この4月末に天に召されたと伝えられたキリスト者の星野富弘さんは、詩
画集の中で次のような詩を詠んでおられます。

     いのちが一番大切だと
      思っていたころ
      生きるのが苦しかった
      いのちより大切なものが
      あると知った日
      生きているのが
      嬉しかった
                                                               (星野富弘)

 群馬県みどり市にある富弘美術館には、なりゆきもあって数回訪れることになりましたが、緑豊かな中に静かに立つ美術館は、星野さんのお人柄や館を運営する方々のお心が現れているようなたたずまいでした。ご遺族の慰めを祈りたいと思います。


投稿日

カテゴリー:

,

投稿者:

タグ: