生れ落ちる前、僕たちに意識はない。そして僕たちは必ず死ぬ。膨大な虚無と虚無の間(はざま)の一瞬の煌めき、それが生だ。たとえその生が、死の前に必ず敗北する儚い一瞬の光芒であったとしても、いや、刹那の瞬きだからこそ、その光は限りなく愛しい。そしてその光の中で、僕たちは必ず誰かを傷つけ、罪を犯すものなのだ。
海堂尊、『螺鈿迷宮』、角川書店、平成18年(2006年)11月31日発行、388ページ
誰かを傷つけ、誰かに罪を犯すもの、それが人間です。だからといって、その現実を受け入れるには、あまりにももろい自分自身なのです。神を信じるということは、このもろい自分に寄り添ってくださる一人の人格者である神を受け入れるということです。そうして人間はようやく罪人である自己を受け入れ、この世界で何とか生きていくことができるのです。