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憎しみと愛

P1000430

過去に起こった殺人事件をミス・マープルが鮮やかに解決する『復讐の女神』は『カリブ海の秘密』の続きに読まれるのがおすすめです。

『復讐の女神』の中に二度登場するこの聖句はこの書物のテーマでしょう。

正義を洪水のように

恵みの業を大河のように

尽きることなく流れさせよ

(アモス書)

アガサ・クリスティー、『復讐の女神』、乾信一郎訳、早川書房、2004年1月15日発行、P50、P450

出典がアモス書としか記されていませんが、おそらくアモス書5章24節のみことばでしょう。

新改訳では

公義の水のように、正義をいつも水の流れる川のように、流れさせよ。

新共同訳では

正義を洪水のように/恵みの業を大河のように/尽きることなく流れさせよ。

です。ということで、新共同訳聖書からの引用であることが分かりました。アモス書は、物質的な豊かさの陰で神さまへの信仰や敬虔な生き方が後回しにされる時代に、神さまを大切にしてきよく正しく生きるようにと、預言者アモスを通して語られた神さまの言葉です。神さまの義が語られている書物といってもよいでしょう。もっとも聖書はどの書簡も神さまの義と愛が書かれているのですが。

そうするとこの書は、過去の殺人事件を解決するミス・マープルの正義の使者としての活躍が描かれているといえるでしょう。

そこで原題はネメシス(NEMESIS)ですが、

広辞苑によると

ネメシス【Nemesis】(分配する人の意) ギリシア神話で人間の無礼な行為に対する神罰を擬人化した女神。

とありました。正義が行われるために罰を下すギリシャ神話の神(聖書の神さまとは全く異質なものですが)ですね。復讐と訳されていますが、どちらかというと正義、公義、あるいは義憤ということの方がぴったり来るようです。アモス書も復讐ということではなく、神さまの正義、神さまの義憤、預言者アモスの義憤ということですから。

さてさて、この書の中に以下の言葉がありました。

「そんなに憎しみというものは、長くつづくものでしょうか?」ミス・マープルがきいた。

「ええ、わたしはそう思うわ。何年でも、わたし、人は人を憎んでいられると思う」

「いいえ」ミス・マープルがいった。「わたしは憎しみは消えるものだと思いますね。ことさら人為的に憎しみを持ちつづけようとしても、持ちつづけられるものではないと思いますよ」そしてつけくわえた。「憎しみは愛の力ほど強いものではありません」

アガサ・クリスティー、『復讐の女神』、P398

この殺人の動機は憎しみではなく愛です。愛するがゆえに起こった殺人事件でした。愛ということですが、ゆがんだ愛というべきでしょうか。今日の報道を見ると毎日のように殺人が行われていますが、そのほとんどは本来ならば愛する関係にあるところに起こっています。正しい愛をもたなければなりませんね。

また愛する関係ではないところで起こる殺人もありますが、突き詰めると自分への愛がゆがんでいると言うことでしょう。まずは自分自身を正しく愛するというところが大切です。自分自身を正しく愛するためには、自分自身を造ってくださった神さまに立ち返らなければなりません。


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